①母親の食べ物は乳房トラブルに関係ある?
②母乳育児って、本来、おおらかでダイナミック!
③食べ物、食べ方はもっと科学的に考えよう!
④母乳育児を続けるために、食べることがとても大切!
⑤ではどう食べたらいいのでしょうか?
①母親の食べ物は乳房トラブルに関係ある?
「甘いものはオッパイをまずくすると聞いたのでガマンしています」
「カレーやキムチのような刺激の強いものはよくないと言われました」
「コーヒーはよくないと雑誌にあったので、水や麦茶を飲んでいます」
「脂っこいものや乳製品はオッパイがつまりやすいと聞いたのでひかえています」
「カタカナ食はひかえましょうと指導されたので、和食中心にしています」
などなど,食べ物に必要以上に気をつかったり、神経質になっている方が多いように思います。
食べ物だけでなく、「水分は1日に2リットルは飲みなさい」と出産した病院で指導されて、がんばって飲んでいる方もいます。
私が母乳相談の仕事を始めた1990年代中頃も、「乳質を良くする食べ物、悪くする食べ物」 「トラブルをおこしやすい食べ物」などなど言われていました。
実際、ケーキを食べてつまった(しこった)、お餅を食べて乳腺炎になったという症例を見ていましたから、「少なめに食べてください」と、私も話していました。
でも、いつの頃からか、食べ物は単なる‘きっかけ’なのかなと考えるようになってきました。
そして、今ではそれは確信に近くなっています。
たしかに、ある食べ物を食べたあとにおっぱいがしこったり、乳腺炎になったりということはあります。その方たちにわしく経過を聞いていくと、基本的なところに疲れ、運動不足、冷え、睡眠不足、ストレス(精神的、肉体的)など、血液循環を悪くしている状態があることが多いのです。
一人目の子の時はたびたび詰まったり、乳腺炎になったりしたのに、二人目、三人目は何を食べて も、まったくトラブルをおこさない人がけっこういます。
赤ちゃんの世話にもなれているので、二人目の育児はとても楽に感じ、ストレスが少ないためと思われます。
さらに、上の子がいるので、外にも行くし、家事も多いので自然に体を動かしているため血液循環もいいし、消費カロリーも多いので、すぐに乳房のトラブルに結びつかないのでしょう。
②母乳育児って、本来、おおらかでダイナミック!
母乳は母親の乳房の乳腺で血液からつくられています。食べ物や飲み物はいわば母乳の原料ですから、あれダメこれダメなんて言っている場合ではありません。
栄養が極端に偏ったり、カロリーが不足すれば、母親がやせてしまうし、体力が落ちて病気にもな りやすくなってしまいます。
母乳分泌も減ってしまうので、赤ちゃんの機嫌が悪くなったり体重が増えなくなってしまいます。
『子育ての社会史』(横山浩司、頸草書房、1986)を読むと、本来、母乳育児は母親がバリバリ働いて、たくさん食べて、ひじょうにバイタリティにあふれ、おおらかでダイナミックな育児法だと感じます。
電化され家事労働が楽になっている現代からは考えられないかもしれませんが、私の子供の頃の記憶では(1950年代)、洗濯機も掃除機もなく、たらいで洗濯板で手洗いし、外の物干し竿(さお)に干していました。家のそうじはホウキではいたり、床の雑巾がけをしていました。
食べ物も現代とは比べ物にならないくらい質素でした。
授乳中の母親は「子持ち二人扶持(ぶち)」と言われ、おかずが少ない分、どんぶりメシを食べていたと思われます。それでも、分泌の良い人はあふれるほど出ていました。
電気冷蔵庫もないので、牛乳や卵を毎日食べるなんてありませんでした。動物性蛋白質や油脂も今ほど摂っていなかったと思います。
ですから、アトピー性皮膚炎とか花粉症などのアレルギーもありませんでした。
現代では、子供の数は少ない上に、洗たくは全自動の洗濯機が当たり前です。家事が楽になって動かなくてすみます。
半面、食べ物は豊かになり飽食気味です。体を動かさないのに、カロリーの高いものやジュースや果物、菓子などの嗜好品も多くなっています。
ちょっと話しがソレてしまいましたが、現代には、体を動かさないわりに、カロリーをとり過ぎになりやすいの状況があるということを言いたかったのです。
実際、初めて赤ちゃんを育てているママでも、体の冷えに気をくばり、活動的で楽天的なママは何を食べてもまったくトラブルを起こさないし、赤ちゃんもマルマルと太って機嫌がいいのです。
そういうママたちを見ていて、もしかして、女性の一生の間で、思い切り食べても太らないのが授乳期なのかな? と思うことがあります。
③食べ物、食べ方はもっと科学的に考えよう!
栄養学的にどの栄養素をどれだけとるかといった理論で考えて食べるのではなく、体の生理に合っている食べ方、体の声に耳をかたむける食べ方がいいのです。
要は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスが大切なのです。朝起きてから、日中の体をよく動かす(働く)時間帯には、しっかり食べることです。いろいろな食物をなんでもとり混ぜて食べる。和食と限らずいろいろな調理法で食べるといった、ごく当たり前のことをするのがいいのです。
「カタカナ食はひかえましょう」なんて言われても、脂っこい料理だったら活動の多い朝食や昼食に食べて、夜は寝るだけなので夕食はあっさり系の食事にしたらいいのではないでしょうか。
朝食や昼食にコッテリ系のものを食べても、授乳をして、体を動かしてエネルギーを使えば問題ありません。母乳の分泌量も多いので赤ちゃんも機嫌がよく、夕方に泣くことも少なくなります。
「和食」が世界遺産になりましたが、それとは別に、ふだん私達が食べている食事は、味噌汁、ごはん、パン、うどん、肉じゃが、ひじきの煮物、おでん、焼き魚、刺し身、焼き肉、ハンバーグ、玉子焼き、カレー、焼きそば、酢豚、ラーメン、サラダ、パスタ、揚げ物、などなど、和洋中華が入り混じっています。
私達日本人はいろいろな食材をいろいろな調理法、いろいろな味付けで食べる‘雑食’の民族なのです。だから、味覚も発達していて、日々の食生活が豊かで、自然に体に良い食べ方をしているのです。
④母乳育児を続けるために、食べることがとても大切!
母乳育児を続けるコツはいくつかあります。最も大切なことは「ヤセないようにしっかり食べること」です。
実際やっていると、自分は食事を食べているつもりでも、体重をはかってみると減っているということはよくあることです。それくらい、体の中で母乳がつくられるということは、ふだんより栄養やカロリーを必要とし、代謝も高まっているということです。
母乳は吸わせてさえいれば自動的に出てくると思いがちですが、母親 が空腹だったり、のどがカラカラにかわいていると、出るまで時間がかかったり、出る量が少なくなったりすることもあります。
ヤセないようにしっかり食べることは、お料理が好きな人、食いしん坊の人には、決してむずかしいことでははないのですが、ママの中には大変と感じる方もいるようです。
独身の頃からの「ヤセ願望で少食」「食べることに関心がない」「空腹さえ満たせれば、なんでもいい」「食物や栄養に関して知識不足」「料理がニガテ」「料理がきらい」「料理する時間がない」「夫が家で食事をすることが少ないので、一人分を作るのがめんどう」などなど、そうなんだ・・・と考えさせられることが多々あります。
‘母乳育児の曲がり角’である3ヶ月頃、あるいはその前から、赤ちゃんの体重が増えなくなったり、母子手帳の成長曲線の枠からガクンとはずれてきたという相談もあります。
小児科医からは母乳が足りていないのだから、ミルクを足しなさい(増やしなさい)と言われることがほとんどです。
中には、あまりにも体重が増えないので、大病院の小児科に紹介されるケースもあります。そういう時、ママもやせていて、妊娠前の体重より減っていることが多いです。
どんな食べ方をしているかを聞いていくと、中にはとても ❛母乳育児中と思えないような食生活❜ の人もいます。朝は眠くて起きられず朝食が抜きだったり、昼食はご飯を少しと前夜の残り物だったり、食パンと水だけだったり。
赤ちゃんの体重増加が少なくなってきたり、機嫌がわるくて抱っこばかりするようなら、まず、ご自分の体重や食べ方、授乳回数が減っていないかをチェックをしてみてください。
「おなかがすかない」「食べたいと思わない」という方は、生活のし方が運動不足になっていないかも見直してみてください。気分の転換のため散歩や買い物など、短時間の外出でもいいのでしてみてください。
食欲がない、疲れやすい、やる気がおこらない、便秘気味、イライラ、朝起きられない、寝つきが悪いなど、体や精神面にも影響が出てきます。
⑤ではどう食べたらいいのでしょうか?
母乳だけで育てている場合、普段の一日の必要カロリーにプラス500kcal(キロカロリー)は必要とされています。ふつうに盛ったご飯なら2.5杯分くらい、6枚切りの食パンなら3枚くらいに相当します。
授乳中の食事は、一回の食事でドカ食いするよりも三度の食事のほかに、10時や15~16時に、お菓子や果物だけですまさず、おにぎりなど軽食を食べるのがいいと思います。
家事をしながら、合間に「ちょこちょこつまむ」という人がいますが、食事を大切に考える意味でも、胃のためにも、ある程度決まった時刻に食べたほうがいいでしょう。
水分のとり過ぎも胃が水分だらけになり、食欲がわかない原因となります。
授乳中はふだんよりお腹がすくし、食べる量は増えるわけですが、いちがいにこれだけと言うのはむずかしいです。
というのは、初めての赤ちゃんなのか、ほかに子どもがいて外で遊ばせたりで手がかかるのか、買い物も車なのか歩きなのか、宅配であまり外に行かないのか、仕事もしているのか、などなど家事の量や活動量は人によって差があるからです。
しっかり食べてもいいと言われても、やはり体重や体形は元にもどしたいですよね。とすると、朝は眠くてもダラダラ寝てないで起きて、朝食を食べて家事をしたり、体を動かすことです。
散歩をしたり、ストレッチをしたり、TVの10分間の体操を録画してやれる時にやると、代謝もよくなり、体が引き締まり、肩こりや腰痛、猫背も防げます。
食事をきちんと食べていないと、体がカロリー不足をおぎなおうとして、チョコレートやあんこ類など、やたらと甘いものを食べたくなり、食べだすと止まらなくなります。
ふだん甘いものを食べない人も授乳中には食べたくなる人が多いのはそのためです。
ふだんの食事で、ご飯をお茶碗1杯なら2杯は食べる。パンもいいけど、ご飯の方が腹持ちもよく、エネルギーとして使われやすく肥りにくいです。さらに、体が温まり便通もよくなります。
おにぎりにしておくといつでも食べられるので便利です。15~16時のおやつタイムに、おにぎりをまず1個食べてから、お菓子や果物を食べると食べすぎなくてすみますし、夕方頃の分泌量が減るのもふせげます。(「炊き込みご飯の素」を利用すると便利です)
「おにぎり」は混ぜる具で変化させやすいし、乳幼児のおやつにも最適です。菓子パン、スナック菓子やクッキー、ジュースなどのようにカロリーが高くないし、歯につきにくいし、子どもがおだやかになりますよ。
そして、お鍋やフライパン一つで作れるような煮物や炒め煮、蒸し煮のような簡単レパートリーを少しずつ増やしていくことをおすすめします。ネットのレシピは便利ですよね。
ちょっと手が空いた時、お鍋に材料と調味料を入れて弱火で煮て、火を止めてふたをしておくと柔らくなり味がしみます。この煮物は離乳食にもあげやすいです。
夕食は7時頃までには食べた方がいいと思います。ご主人の帰りを待って、9時、10時に食事をとると、ただでさえ夜中に母乳の分泌が多くなるので、しこったり、つまったりのトラブルの原因になりやすいです。